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5、第三次印パ戦争

 中近東を経由して行く南回りヨーロッパ線は、その時々の政治情勢によって、寄港地と乗員の滞在地が変わります。

 イランは、今でこそ宗教的な戒律を非常に重んじる国ですが、1979年にイスラム革命が起きる以前は西欧化路線をとるパーレビ国王の統治下にあり、テヘランの人々の生活は数日滞在するだけの私の目には、イスラムの国とは思えないほど華やかに見えましたした。欧米のようなファッショナブルな装いの女性も沢山いましたし、チャドル(女性の体全体を覆う黒い布)を着用した女性も裾を翻してカラフルなミニスカートをのぞかせていたものです。 1970年代初め、大学でもオフィスでも当然のこととして女性達が活躍していました。何といっても、アメリカ系のホテルであるシェラトン・テヘランがあって私達乗員はそこに宿泊していたのですから、今の政治情勢からは考えられないことです。バザールでのショッピング、モスクや博物館の見学、観光など、車や徒歩で可能でした。

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                     こんなミニチュアゴルフも出来ました。(1974年)

 一方イランの東隣りの国、パキスタンは1947年の英領インドからの分離独立後、カシミールを巡ってインドと対立し、不穏な情勢が続いており、70年代初め当時カラチへは就航していませんでした。(後に就航し、私も何度も滞在しました。)

 1971年の秋のある日、私はバンコクからのフライトで到着してテヘランにいました。
 翌日、会社から連絡があり、明朝カラチに臨時便を出すので乗務するようにとの事です。それでキャプテン以下10人ほどの一チームが帰りの便のための食事だけ積み、空(から)のDC-8でカラチまで行きました。けれど上空に来てもなかなか着陸しないのです。その理由は後で分かるのですが、ようやく着陸し、満席のお客様を乗せてすぐに出発です。
 お客様はほとんどが日本人の家族連れで、欧米の男性も少しいました。皆さん疲労と安堵の入り混じった表情で、中には泣いている方もいます。そして口々に「迎えに来てくださってありがとう」とおっしゃるのです。
この方たちは、少し前に第三次印パ戦争が勃発し、家を捨ててホテルに避難していた駐在員のご家族だったのです。
 食べ物はパンしかなく、それも乏しくなりかけていたのだそうです。そして搭乗に先立って、命の保証は求めないと一筆書かされていたのだそうです。
 フライトはどうにか無事安全なテヘランにたどり着き、そこから別の便で日本へ帰られました。そして私達乗員は予定のヨーロッパ行きのスケジュールに戻ったのです。
 テヘランのホテルに戻ってからキャプテンに聞かされたことは、「銃撃戦が静かになるのを待って合間を縫って着陸したんだよ」。
 どうりですぐに着陸しなかった訳です。

 その後12月に、東パキスタンがバングラディッシュとして独立したことを、私は新聞で知りました。

 

2018年9月の追記

 上記の文章は、この記事を最初に公開した時、つまり2007年8月(今から11年前に)その時点から36年前(今から47年前)の事を思い出して書いたものです。書いた当時、中東情勢はあの頃から大きく変わったと思いながら書いたものですが、2018年の今、11年前のこれを書いた時点からも世界は激動の連続だと言えるのでしょう。人類はいったいどこに向かおうとしているのか。

 また、この時はたまたま近くに居合わせた民間航空会社の一社員でしかない私たちが、会社の指示に従って戦時下にある空港に救出に行ったのです。しかし私はその後、このようなケースでの在外邦人の救出について、日本が大きな問題を抱えていることを知ることになりました。(関心おありの方は Wikipediaの「イラン・イラク戦争 」の項の 「3 影響 3.1 日本との関連」などをご覧ください。)

 


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めぎ

私の生徒たちの中には中東出身の人が結構いるんです。また、中国や韓国系・東南アジア系もいます。みんな夏休み等に親の祖国を訪ねたりしています。
いろんな文化の生徒たちがドイツ人として日本語を一緒に学ぶ様子を見ながら、平和が続きますように、と願っています。
そして、私が教えた彼らこそがその平和をずっと維持するよう努力してくれると願いつつ、そう導くことができたら良いなと努力しています。
by めぎ (2018-10-01 06:03) 

もとこさん。

めぎさんは毎日色々な文化に接しながら、それらを越えて生活していらっしゃることでしょう。そのこと自体が、ご苦労は沢山おありと思いますが、豊かな生活ですね。
それぞれが自分の民族的文化的背景を大切しながら、世界人として一つになれる日を一日も早く来たらせたいと、切に思います。
by もとこさん。 (2018-10-01 13:40) 

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